この記事にご興味を持たれたということは、大なり小なり広告運用者の採用でお困りのことかと思います。
採用市場に広告運用の経験を持つ人が現れること自体が希少で、その少ない機会の中で、良い方を見出すのも一苦労、、、そんなお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
私は長年、自身で広告運用業務も行ってきましたが、同時に運用者の採用/育成にも携わってきました。
いろんな成功/失敗を重ねて、自分の中で「良い運用者として活躍してくれるだろう人物を見極めるためのポイント、質問」が自分なりに言語化されてきましたので、記事にしようと思い、今回筆を執りました。
ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
※なお、本記事はそれぞれの会社の理念、カルチャーへの共感などの人間性はいったん考慮せず、見極めるべきスキルや素養に特化して記載をしています。
4象限で整理して考えるスキル分布
いきなりオススメの質問集をお話しする前に、「広告運用者が備えておくべきスキルって何?」という点について整理をさせて下さい。
思考力、リテラシー、コミュニケーション力、、と、思いつく限り羅列して考えることもできますが、スキルや素養を整理しやすいように、次のようなマトリクスで考えてみることにします。

縦軸は「開発のしやすさ」です。
開発が難しいのは、先天的な素養や気質だったり、もしくは自社にノウハウがなく教育が困難だったりするスキルです。
ですので、どの程度開発しやすい/しにくいスキルか?は会社によってばらつきがあります。
横軸は「広く”仕事全般”を捉えたときに、そのスキルが活きる場面の多さ」を表します。
これを「特殊/普遍」という言葉で表しました。
特殊スキル寄りにプロットされるのは、いわゆる広告運用のオペレーション能力などが代表的です。
他には、インターネット広告に関する基礎知識の有無や、アクセス解析ツールやタグマネジメントツールの操作などが挙げられます。
対して普遍スキルはというと、思考力やフレームワークの引き出しの多さ、対人能力、作業の正確性など、広告運用に限らずどんな仕事でも大事なスキルです。
業種を問わず会社経営に必ず求められるバックオフィス系の業務経験やスキルもこれにあたりますね。
さて、この図でいう①~④のうち、どの象限のスキルを重視して採用すべき人物を見極めるべきでしょうか。
結論としては、②の「開発(難)×普遍」の象限を最も重視すべき、というのが私の考えです。
「いやいや、広告運用者なんだから広告運用のスキルが大事でしょう。特殊スキルを重視しようよ」という反論は、当然あると思います。
しかし、そこまで重要視する必要性はないと考えています。その理由をお話していきます。
広告運用の特殊スキルは「積みあがらない」モノである
巷でよく言われる「広告運用スキル」とは、いったい何でしょうか。
質の良い戦術立案から、遂行、その結果を分析、考察、改善、という一連の流れを遂行するために必要なスキルを「広告運用スキル」と呼ぶならば、それは下記のようなスキルを総称したものと言えそうです。
- 専門知識(広告知識と、参入する業界知識)
- オペレーションスキル
- 蓄積された経験則
さて、ここでひとつお話しておきたいのが、これらのスキルとは、1年2年と経験するうちにスキルが積み上がっていくものではなく、どんどん価値がなくなっていくものである、という点です。
なので、広告運用を5年やってるから優秀とか、半年だからひよっことか、必ずしもそういう世界ではないということですね。
理由としては、この業界の進化の速さにあります。
インターネット広告は年々新手法が生まれ、新しい広告媒体の登場や、既存の広告管理ツールのリニューアルも頻繁に起こります。
前提となる配信ロジックの変更もあります。
またそれとともに、今まで通用した判断基準と経験則も、環境が変わればただのミスリードの元にしかなりません。
なので「専門知識」「オペレーションスキル」「経験則」は習得して終わりではなく、習得をし続けなければならないものですし、時には「一度習得したスキルや考えを捨てる」ことも重要になってきます。
なので、採用面接の場で「今までどういう広告媒体を扱ってきましたか」「どのような成功事例がありますか」という「過去のスキルや経験の蓄積具合」を問うのは、あまり意味がない行為です。
ただし、まったく広告運用者がいなくて運用をイチから教えることができない事業会社さんの場合は、ここも重視するべきだと思います。
では広告運用者にはどのような素養、スキルが求められるのか?
4象限のうち「開発(難)×普遍」にあたるスキルや素養のうち、私が特に広告運用者にとって大事だと思うものを3つ、紹介します。
それは、
- 抽象化/具体化思考
- 継続学習能力
- リーダーシップ
です。
これらの能力は、上記の「広告運用スキル=質の良い戦術立案から、遂行、その結果を分析、考察、改善、という一連の流れを遂行するために必要なスキル」をアップデートし続けるため、また、そのスキルを適切に発揮するため、の2点において重要です。
まずは抽象化/具体化思考。
これはデータをノウハウ化して学びとして還元したり、抽象的なノウハウや概念を実際の仕事に転用するための能力と言えます。
広告運用は、社外の肝心なことは教えてくれない抽象的な事例を、自分の場合はどう活かせるだろうと考えて施策に落とし込んだり、数字の羅列に意味や規則性を見出して再現性のあるノウハウを抽出する思考習慣がとても重要です。
次に継続学習能力。
これは本を読んだりネットの記事をインプットしたりという学習習慣のみを差すのではなく、一度得た成功体験を捨てて新しいやり方を身に着けるためのアンラーニング能力や環境への適応能力、素直さ、好奇心、確証バイアスを排して情報に向き合う情報処理能力なども含みます。
最後にリーダーシップ。
広告運用者なのにリーダーシップ??と思われる方もいるかもしれませんが、重要です。
広告運用の管理画面でできることのみでビジネスが前進することは稀で、仕事を前に進めるためには、あるべき姿を描いて他人を動機付け、自らチームを作り出して熱量をコントロールさせながら前進させる能力が求められます。
これはリーダーやマネージャーという役職に就いたことがあるかどうか?で量るものではありません。
他にも色々大事なスキルや素養はあると思いますが、特に大事だと思う3つを紹介しました。
それでは、その3つのスキルを、採用面接の場でどのように見極めたらよいのか。そのオススメの質問集をご紹介していきます。
広告運用者の資質を問うためのオススメ質問集
最後に、私が考える3つの大事な能力を見極めるためのオススメ質問集を記載します。
抽象化、具体化思考の能力を見極める質問
Q. これまでのご自身の成功や失敗から得られた、再現性のある仕事のノウハウを教えてください。
”再現性のある”という枕詞をつけることで抽象化して振り返りを行う思考習慣の有無を見極めます。また、どのようなご経験からそう考えたのか、という思考の流れを明確に問うのも大事です。
Q. これまでに読まれた本で、ご自身の仕事に役に立っていると強く思った本があれば、その良さを1分くらいでプレゼンして下さい。
これは本に書かれている内容をどう具体的に役立てられるのか、という具体化思考を主に問うための質問です。また、1分にまとめてもらうことで要点を整理する思考力も見ています。
そのほか、固まった形式の質問ではないですが、「どのようなご経験からそう考えたのですか」「そのご経験からどういうことを学びましたか?」という点については、面接中に何度も聞いて抽象化/具体化の思考習慣を探るようにしています。
ちなみに、このような質問をされて考え込む方とわりと即答できる方に分かれると思いますが、即答できる方は日ごろから思考や内省の習慣がある方だと判断できます。
継続学習能力を見極める質問
Q. 最近、仕事に関連する情報収集において、特にアンテナを張っているキーワードやトピックを教えて下さい。またその理由はなんですか。
トレンドにどのくらい敏感か?という情報感度を主に見ます。
また、古典やアカデミックな学びにアンテナを張っていて、それを実際の仕事と接続できているような方も個人的にポイント高いです。
Q. これまでの仕事で、一度積み上げたご自身の成功体験がまったく通用しなくなったご経験はありますか?また、その状況をどのように打開することができましたか。
アンラーニング力、素直さ、適応力を主に問うための質問です。「やり方」をアップデートできる方も優秀ですが、自分を客観的に認知し「在り方」を変革して問題解決を行ったことのある経験をされている方は、とても優秀な方だなと判断しています。
Q. 5年後のインターネット広告は、現在からどのように進化していると思いますか。
これは広告の専門的な知識をいかに日ごろから仕入れているか、また、それを「考えながら」仕入れることができているか、という点を見るための問いです。
また、聞く側も様々な視点を知れて普通に勉強になります。
リーダーシップを見極める質問
Q. 「あなたが考える『リーダーシップ』とは何か?」と、それを発揮して物事を好転させられたご経験を教えて下さい。
「みんなを引っ張って~」「支えて~」という小学生の作文レベルの答えではなく、リーダーシップの研究論文や書籍の内容×ご自身の経験に裏打ちされた強い意志のある持論が出てくるのが究極の理想です。
なおこの質問は、質問する側も同様の強い持論を持っていて初めて意味があります。
Q. ご自身の力だけではなく、上司や部下、他部署、他社の人間を主体的に巻き込んで結果を出せたエピソードがあれば教えて下さい。
自らチームを作り、人を巻き込む力を問うための質問です。
「人を動かすの、大変ではなかったですか?動かすための苦労話はありますか?」と具体的なエピソードを追加で聞くことで、コミュニケーションにおける”覚悟”の有無も見ていきます。
Q. 仕事における、ご自身の「理想の姿」と「現在の姿」にはどのようなギャップがありますか?そのギャップは、どうすれば埋められると思いますか?
内発的動機付けの力、いわゆる”創造的緊張状態”を自発的に作り出せる意志の強さと、そこに向かうための熱量を問うための質問です。
理想状態が現在の業務の延長線上にあるのか、非連続な高い目標なのか。非連続な高い目標だとしても、口だけではなく実効性のある道筋をイメージして自己研鑽しているのか、などを見ています。
最後に
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
戦略のミスは戦術では取り返せないのと同様に、採用のミスマッチは育成では取り返せません。
これを読まれている会社さまの広告運用者採用のお役に立てる内容になっていたら、とても嬉しいです。